壁掛け時計をご購入いただいたお客様から、時折いただくご質問の中に下記のようなものがあります。

「時計の針の指す位置が文字盤のインデックスと微妙にズレているのですが?」

時計をご購入いただいたお客様の立場から考えると、このような場合にまず想起してしまうのが「故障」や「不良品」というキーワードですね。

今回はこの「時計の針の指す位置が文字盤のインデックスと微妙にズレている」という現象についてご紹介させていただきます。

針のズレは故障ではない

結論から言うと、この「時計の針の指す位置が文字盤のインデックスと微妙にズレている」という現象は故障ではありません。

この現象は「バックラッシュ」というアナログ時計特有の現象となっておりまして、大手時計メーカーのウェブサイト等でもアナログ時計の構造上どうしても避けることのできない現象として紹介されています。

それでは、この針のズレがどのようにして起こるのかを詳しく見てゆきましょう。

アナログ時計にとって針ズレはどうしても起こってしまう現象なんですね。

 

針ズレの原因は歯車同士の遊び

私たちが日頃よく目にしているアナログ時計には、時計の針を動かすためのムーブメントと呼ばれる非常に精密な機械が付いています。

 

時間を1秒ごとに刻むステップムーブメントや時計のカチコチ音が鳴らない静かなスイープムーブメント、標準電波を受信し正確な時を刻んでくれる電波ムーブメントなど、その種類は様々です。

このムーブメントには、大小様々ないくつもの歯車が存在します。
そして、この歯車同士が噛み合い作動することで時計の針を動かしているのです。

ここで問題となってくるのが、この歯車同士が噛み合わさった箇所の遊びです。

ムーブメント内の歯車同士には、必ずバックラッシュと呼ばれる隙間(遊びの部分)が意図的に存在します。
このバックラッシュが存在しないと歯車同士に摩擦力が生じ、歯車がスムーズに動かなくなるため、常に一定の速度で時を刻み続けなければいけない時計にとって致命傷とでもいうべき深刻な状態になってしまうのです。

そして、このバックラッシュがあるために、時計の針が微妙にズレるという現象が起こってしまうのです。

 

バックラッシュが必要な理由

バックラッシュには、歯車同士の摩擦をなくし、時計の針をスムーズに駆動させるという役割の他にも以下のような役割があります。

熱膨張による部品の変化を吸収

ムーブメント内の部品は、熱膨張等によって微妙な形状の変化を起こす場合があります。

例えば、10mmほどの鉄製の歯車の場合、温度が10℃上がれば長さで約1μm(0.001mm)ほど伸びることがあります。

この時、バックラッシュがないと歯車同士がくっつきすぎて、針のスムーズな動きを損なってしまうのです。

経年による部品の変化を吸収

時計は毎日24時間休まずに動き続けています。

長期間に渡りムーブメント内の部品に駆動力がかかり続けることで、どうしてもわずかながらひずんだり変形したりしてしまいます。

このようなケースでも、バックラッシュが存在することで、この部品の変化を針の動きを損なわない程度に吸収してくれるのです。

時計の寿命を延ばしてくれる

電化製品や様々な機械にも寿命があるように、時計のムーブメントにも必ず寿命が存在します。

もしバックラッシュがなければ、歯車同士がくっつきすぎているため、潤滑油が歯車の噛み合う面に上手く入り込むことができず、歯車があっという間に摩耗してしまい、時計の寿命がかなり短くなってしまうことでしょう。

これらのようにバックラッシュは時計の針のズレを生み出してしまうのですが、時計にとっては必要不可欠なものだとご理解いただけましたら幸いです。

バックラッシュっていろいろなところで役立っているんですね。

 

針ズレの許容範囲はどれくらい?

針ズレと一言でいっても、どのくらいの範囲までが良品扱いで、どれくらい以上が不良品と認定されるのかが気になるところですよね。

正直言うと、製造メーカーによってこの許容範囲はまちまちだと思うのですが、とある時計製造メーカーに聞いてみたところ、「弊社では30秒~40秒ほどまでのズレでしたら良品扱いとさせていただいております。」とのことでした。

当店で取り扱いさせていただいております時計の中には秒針のないものも多々ありますので、秒単位での確認は難しいケースもありますが、このメーカーの製品の場合、概ね1分程度までなら良品、それ以上のズレなら不良品といったところでしょうか。

1分以内の針ズレだったらそれほど気にならないかもしれないですね。

 

 

関連記事